第1章

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「光学迷彩服ですか?」  ぼくは博士の取り出した、全身を覆うポンチョのような衣服を見て叫んだ。 「うむ。この服を着ると、光を曲げる効果がある。着た者は、まるで透明人間になったような気分になれるわけじゃな。それについては……」  博士は手の中のスイッチを入れた。ぼくは興奮した目でそれを見ていた。ほんとに透明になっているとしか思えない! 「着ます」ぼくは即答した。「着ます着ます。透明人間になれるなんて、めったなことじゃできません。モニターさせてください」 「よかろう。とりあえず、これを着て研究所の周りを一周してきなさい」  ぼくは胸躍る思いで光学迷彩服を着た。  研究所の外へ一歩を踏み出すと、そこは普通の地方都市の道路である。通る車も、人の数も、ぼちぼちというところだ。  ぼくは優越感からゆっくりと歩いた。  視線を感じた。……視線?  ぼくはそちらに目を向けた。三歳児が、こちらを見ていたが、すぐに目を背けて駆けていってしまった。  この光学迷彩服に異常でもあるのだろうか。  ぼくは、銀行のガラス窓に身体を映してみた。なにも映っていない。そうとしか見えない。博士の言葉は正しかったのだ。  それでも……。  それでも、この身体にぐさぐさと突き立ってくるような、どこかから向けられてくる数々の視線はなんなんだ?  ぼくは右を見た。左を見た。前を見、後ろを見た。ついでに上も見た。  制服姿の女子高生たちがきゃいきゃいいって通り過ぎていく。見ている。そうとしか思えなかった。ぼくが見えていながら、気づかないふりをして笑っているのだ!  そう考えたとたん、この町の全ての視線がぼくに集中してくるのを感じた。ぼくは、脱兎のごとく、博士の研究室に逃げ込んだ。  博士はびっくりしたようだった。 「ずいぶんと早いことだが、うまくきみの身体が透明にならなかったのかね」  ぼくは光学迷彩服を脱ぎながら答えた。 「この服は完璧です。完璧でないのはぼくなんです」  ぼくは普通のコートとズボンの姿で家へ帰ることにした。道行く人は誰もこちらを見もしなければ、気づきもしないようだった。  博士は間違っていたのだ。光学処理なんかしない何でもない普段着、これが都市での最大の迷彩なのだと、ぼくにはようやくわかったのである。
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