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会社内でも密かに同好会が乱立していたし、散々断ったが強引な上司に強制参加させられてしまった。
テンプレートな怪談をいくつか聞いたあたりで、強制参加を齎した元凶が声をかけてきた。
なんでもいいから怪談話をしろとのお達しだったが、(自分の中で)安易に語る話ではないので「知らない」と語り部を辞退した。
だが、知らぬ存ぜぬを頑なに突き通した私を良く思わなかったのだろう。
――ああ藤咲くん、キミ明日から来なくていいから。
――ねえ聞いた? 藤咲さんの話。実はさ…
――ええ? あたしは〇〇さんの彼氏取ったアバズレって聞いたけど!
――それマジな話?やだ、不潔~。
――つーかさ、それでよく会社これるよね。
結局は何も話さなかった私に待っていたのは、身に覚えのない罪での免職処分と罵詈雑言。
すべては酒の席で恥をかかせた私への、上司の仕返しだった。
社内の誰もが上司が手前勝手に捏造した事実と真反対な噂を真しやかに影で囁き、哄笑するばかりで、満足に息ができる場所などなかった。
母との件で人間には懲りていたが、再び人に憎悪を憶えた。
闇を見る目を持つ者は、雑踏に身を潜めていなければ存在できないものなのだ。
ゆえに本当に視える「同族」は、素性を伏せる。だから行き逢わなかったのだ。
もう二度と、視界にも入れないし何も語るまい。
私は、人間が大嫌いだ。
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