act.1 絶望篇Ⅱ

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   朝、出社すれば椅子のネジが一本抜かれていたり。  こちらの話を一切聞かずに、故障した椅子の弁償代金を理不尽に請求されたり。  置き靴を破壊されたり。    周囲の人間は一方的で陰惨な陰口を囁き、悪戯を働いて面白がるだけだが、たかが陰口や悪戯。  実力を行使した、どこかの莫迦女よりはまだかわいいものである。  自分には、本日付での抹消が言い渡された。 (親のコネで圧力かけるなんぞ、さすが陰険女。ゲスい手をつかう)  最終学歴を卒業以来かれこれ数10年間の付き合いだったが、明らかな事実の隠蔽・捏造も見抜けないとはここのトップの目も狂ったものだ。  そんな会社など、こちらから願い下げである。    そして、一番怨むべくは群れのセンターで仁王立ちする諸悪の元凶。  ソイツときたら、赤いルージュを塗った唇をつり上げて笑っている。  まったくいい気になって、似合いもしない赤なんて付けるんじゃない。この唇お化け!  貴様はせいぜい、夜道に気を配るんだな。  …というのもここだけの話、件の陰険莫迦女はどうにも自分以外からも数知れぬ怨みを買っているようで付きまとう怨念の塊が近日限界を迎えそうなのだ。  人を呪えばなんとやら。諺にもあるが人の不幸せを願うのならば、それ相応の代償を支払わねばならない。  まあ、強く願うモノの前で説法をしたとしても…結局その者の前では道端の石ころにも劣る物にしか見えないのだから、初めから意味はないのだけれど。  この場合、面白いから教えなかったが。 「あー……終わった」    どうせ何を言っても無駄な人間共など斬って捨てればいいだけなのだが、ただ1つだけ気掛かりなのがこんな自分に衣食住を与えてくれる叔父である。  彼には、迷惑を掛けたくなかったのに、たった1つの噂が人生を叩き壊しただなんて…言えなかった。  何のため…そんなもの自分の為に他ならないだろうが、毎朝着たくもないスーツを身に付けて、浴びたくもない罵詈雑言を吐きつけられる日々を送らずにすむのが唯一の救いだろう。  朝から降り始めた雨は午後には雨足を強め、バケツを倒したような土砂降りになっていた。
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