act.1 絶望篇Ⅱ

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 どいつもこいつも、人間なんかそんなものだ。  まともに接すべきではない。  解っていた。解っていたのに「もしかしたら」と、どこかで期待してしまった。  信じたりするから、こんな目に遭う。  人のしがらみなんて、情が湧く前に早くから切ってしまうべきだったのだ!  無感情に近いとはいえ、流石に心身共に消耗しきった私は傘を差す気力もなく叔父の寺へと続く坂道にある公園で膝を抱えた。  雨粒が身体に満遍なく叩きつけられ、強い風が抉るように耳に吹き込んでくる。  生きていることが、今ほど虚しく感じた日はない。  もう、死ねばいい。  そうすれば、少しは頭も冷えるだろう。  人間なんぞを少しでも信じた罰だ。  次に生まれるなら、意思も感情もない石ころにでもなりたいもんだ。  なにも知らず理解せず、転がるだけ。  なんて羨ましい、魅力的な身分だろう。   嗚呼…きっと、雨に長く打たれ続ければこんな莫迦な自分でも肺炎で死ねるはずだ。  母親に捨てられ、たかが噂1つで職もなくした人間としては単なる役立たずな人生、生きていてなにがある?  こんな自分に、一体何が残っている?  人ならざる存在を視る、両の目しか残らないじゃないか。  この目も、能力も、命も要らないから死にたい。  ただ1つ縋りついていた「仕事」という意義は、もう何処にもない。  誰の目にも、どの場所にも「私」は映っていない。 (ああ、また戻るのか。元の幽霊に)  どれだけ雨に打たれていただろう。  ふいに雨が当たらなくなったことに気づいて顔を上げると、傘を差しかける叔父がいた。 「香炎」 「あ……」  柔和な眼差しと目が合った瞬間、不思議とわだかまっていた負の感情が和らいだ。 「そのままでいい。お前は何も気張らず、在りのままを生きなさい」  頭から爪先まで濡れ鼠で化粧も取れた異様極まりない自分に、叔父はそれ以上なにも言わずに傘を差しかけ、腕を牽いてくれた。 「お父さん…」 「帰ろう、私達の家に」 「……はい」  かれこれ、今から2年前の話である。
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