act.2 波紋

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 その日、珍しく勤務先の終業が定時を超えた。  腕時計を見ると、針は2本仲良く重なりもうすぐ日付が変わろうとしている。  商社の事務員を辞めて2年。  寺から15分ほど歩いた飲食店に就職が決まった私は、かつてのように寺の離れに移って生活を始めた。  叔父は気を使わなくていいと言うが、身内だからといつまでも頼りきりはいけない。自立せねば。 「うん静か。今日も特に異常はナシ」  寝静まってすっかり静寂が降りた住宅街、その脇道から寺へと続く坂道がある。  垂れ柳の並木が続くこの道は昼夜問わず薄暗く幽霊でも出そうだと言われるが、そういう類いが出没したことはない。  …と、言えるのも今日までらしい。 「…じゃなかった」  寺の門扉の前に、ソレはいた。
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