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「傷を見せてくれる?」
彼がどういう判断をしたのかは判らないが、指先で触れても逃げ出さなかった。
「逐一断らずとも……好きに、すればいい」
拗ねたような口調に、思わず口許に笑みがのぼる。
途方に暮れた子供のように大人しくなった彼が、うっかりかわいく見えた。
「うん。そうする」
しかし、この妖は何処の何者なのだろう?
まとう妖気にも色と属性があり、水の者ならば妖気の色は青系統、炎を遣うものや焔その物の妖なら妖気は赤色になる。
五行相克の性質はどの妖にも共通する項目だし、普通はそれで種族を特定するが…。
彼の妖気の色は底なし沼のような闇色で、属性が視えない。
稀に元人間の「成り上がり」の妖は、属性がないこともある。
もしかしたら…とも考えたが憶測で判断すべきではないので、考えるのをやめた。
まあいずれにしろ、妖ならこれで傷が治るはずだ。
「ああ、やっぱり…」
赤紫に摩れて変色した頬の打撲に触れると、じわじわと面積を狭める赤紫。
やはり、コイツは妖だ。
(嗚呼ようやく。ようやく、見つけた。愛しい、非日常)
「他にも傷があるだろうし…一緒においで。私には、アンタを治してあげられるだけの能力(チカラ)がある」
未だに茫然と見つめ、動こうとしない黒髪の妖に改めて手を伸ばすと、彼はやんわりと手を握り取ったが、すぐその場に膝をついた。
重傷の身で極限の緊張を続けたのだ。ガタが来ても、なんら可笑しくはない。
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