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頬の打撲以外は満身創痍の妖に振動を与えないようにソファに降ろし、足の裏を拭う。
手もそうだが、足の爪も尖っているのは妖だからなのだろうと勝手に結論づけた。
こんなので引っ掻かれたら、やわな人間の皮膚なんか一堪りもないだろう。
というか、人体なんて軽く細切れになりそうだ。
ついさっきまでノラの汚れだった妖を、このまま放置するのは衛生的に好ましくない。
とりあえず着せられるような服をかき集めてから、洗面器に沸かした湯を張り清潔なハンカチを浸す。
「よし、これでキレイになった」
汚れが落ちて清潔になった肌に手を翳す。丹田から緻細な経絡を経由し、掌から照射するイメージを描いて「異能」を解放する。
手足の骨折を治し終え、次に目がいったのは身体中に走る生傷。
一体どれだけの大群にやられたのやら、ムッと妖の血の匂いが鼻をついた。
「脱がすけど、暴れないでよね。害は与えないから、大人しくしてて」
そのままでは治療がしにくいので上半身の服を脱がし、汚れと血痕を拭き取っていく。
見つけた時はひょろっこい印象しかなかったが、彼はしなやかな筋肉に覆われた引き締まった身体をしていた。
全身は、まさに満身創痍。
小さな複数の噛み傷や、鋭利な爪で引き裂かれたであろう裂傷、打撲傷に骨折。
特に一番の重症は、袈裟懸けに走る背中の大傷だ。
歯形から推測するに、かなり大型の妖にやられたのだろう。
傷は深く、間違いなく内臓も損傷している。
よくもまあ、ここまでされて命があったものだ。
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