act.0 絶望篇

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 無機物のように心が感じられない、人らしからぬと病院を紹介されたが、何に対しても「退屈」としか思えない私は考えることすら面倒くさくなって顛末の全てを忘れることにした。   放棄されても無感慨な娘に、母は限界だったのだろう。 ――人らしい心がなければ、世間で受け入れられなくても当然だ。  それなのに、なぜ苦痛を感じずに生活ができるのか。それは可笑しい、可笑しくて恐ろしいことだ。 ――人らしい心を持ちなさい。そうすればまた、人々は受け入れてくれる。  彼女は、鬼の形相で執拗に矯正を強要した。  それはまるで、娘がなにか「別物」に変化するのを畏れているようにも感じた。  しかし、もちろん私は彼女が望む更正をしなかった。 「もういい、もうたくさん! アンタなんて娘、生まなきゃよかった! 顔も見たくない、出て行けっ」  いや、むしろ彼女の限界なんか知ったこっちゃない。  というか、宗教臭い言動が著しい母親が嫌で嫌で仕方なかったのだし、この絶縁発言はとても都合がよかった。 (やっとあのヒステリー女から解放されたはいいんだけど、何故に寺?)  追い出されはしたものの―――どういう経緯か量りかねるが、私はなぜか母の知古が住職を務める寺に預けられることになった。  重厚な雰囲気に一瞬だけ気圧されかけたが、名を呼ばれて振り返ると紫紺色の袈裟を着た剃髪の僧侶が佇んでいた。
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