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「キミは、本当に人間らしさが抜けないね」
__人間らしさ。
そんなもの抜けなくていい。
彼女のことを忘れたくはないから。
「キミもそろそろ生まれ変わりを考えてみては?」
上司は腕を組むと薄い唇で、ふっと笑う。
__生まれ変わり。
俺が別人として生を受けたら、また彼女と出会えるだろうか。今度は彼女と結ばれるだろうか。
だけど俺は、きっと彼女を忘れてしまう。
そんなのは、絶対に嫌だから……。
「生まれ変わり拒否します」
例え彼女が俺を忘れていても、またここに彼女が来た時には彼女を導いてあげたい。
__次の世界へ。次の幸せへ。
「……はぁ」
げんなりとした顔で溜め息を吐き出す上司は無視して、俺は彼女が自らの足で進んでいった光輝く道をそっと見つめる。
……幸せになって。
「……また、会おう」
今度こそ、人生をまっとうした彼女を俺はここで待っているから。
おわり。
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