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「…さて。さっきも言ったが、君たちが今日診察に来られると正直私は思っていなかった。きっと君たちの愛の力だろうね」
微笑みを湛えながらも、K教授の声の調子は沈んでいる。無理もない。妻は彼にとっても大切な、教え子のひとりなのだ。
「…半年を過ぎたくらいから僕の姿が見えなくなることが多かったと妻は言っていましたが、同じ頃から郵便配達員や近所の方のことも時々見えていなかったようなんです。」
僕の報告に教授は深く頷き、「近いうちに君のことを彼女は完全に認識できなくなるだろうし、これからはそういう対象がどんどん増えていくだろう」と言い、目頭を押さえた。
…1年前。
偶然早く帰宅していた僕は、妻の勤め先である軍病院から一本の電話を受けた。
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