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「正式な病名は人体不可視化症候群。最近存在が確認されたばかりの、新しい難病だ。もっぱら透明人間病と呼ばれているがね。」
透明人間病…。
聞いたことは無かった。でも、私は長らく学界からは縁遠い世界に身を置いているので、知らないのも無理はないだろうと思った。
「この病気にかかると、患者はだんだん周囲の人間に認知されなくなっていく。そこに存在はしているんだ。
だが、なぜか誰からも見えなくなってしまう。そのうち声も聞こえなくなるし、患者に触られても感じられなくなる」
これを聞いて私は安心した。とりあえず、夫が死ぬことは無いのだ。
それにしてもしかし、なんと不思議な病気だろう。
この病がもたらすのは、肉体的な死ではなく観念的な死なのだ。
夫が観念的に「死んでしまう」には、少なくとも1年かかるとのことだった。そして、3年以内には必ずその時は訪れるだろう、とも。
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