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私たちはまず、日常の些細なことでも記録する習慣を付けることから始めた。
絶対にしなければならないことや忘れてほしくないことを付箋に書いて、共有のノートにぺたぺたと貼っていくのだ。今日の晩御飯の希望。お使いのお願い。川沿いの桜が咲き始めたらしいから今週末見に行こう、などなど。
こうして記録する癖をつけておけば、夫が見えなくなってしまったとしても夫の書いた文字は残る。コミュニケーションはできるのだ。
次に始めたのは、夫の姿を記録しておくことだった。
食べる姿、歯を磨く姿、朝寝坊して慌てる姿、そのどれもを飽きるほど見ていたはずなのに、いざ記録し始めると、そのどれもが新鮮で、愛おしかった。
最初は恥ずかしがっていた夫も次第に慣れ、そのうちふざけて私を撮ることも多くなった。
「自分がこんなに愛妻家だったなんて気が付かなかったな」
そう言いながら洗濯物を干す私をビデオカメラで撮る夫に向かって、私は笑いながら、私は自分が愛夫家だって気づいていたわよ、と言った。
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