透明人間になるまでに

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 私は不安になって、夫に電話をした。  その着信音は家の中、それもすぐ近くで聞こえた。  そして私はそこで初めて、リビングのソファーに腰かけ電話を握りしめて泣いている夫を見つけたのだ。彼はずっとそこにいたのだ。ただ…私に見えなかっただけで。  こんなことが、だんだん増えていった。  長いときは丸3日も夫は透明なままだった。  そのうち、ルールができた。  夫の姿を見かけないと思ったら、すぐに電話を掛けること。透明になっていると気づいたらすぐに連絡ノートに書くこと。透明な間は、家から出ないこと。  慣れとは恐ろしいもので、半年も経つころには、私は夫が透明になってもあまり動揺しなくなっていた。もちろん悲しい気持ちにはなるが、どうしようもないことだし、それに一番つらいのは夫なのだ。  透明な間、彼は誰にも認知してもらえない。  その絶望は、私には到底計り知れないものだった。
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