第20章  星にかける願い

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だがその途端、彼は、彼女の唇が微かに震えていることに気付いた。 そしてそれと同時に、彼女の話を遮っていた。 「那々ちゃん、いつからここにいたの?」 えっ……? 当然ながら、今度、言葉を詰まらせたのは彼女のほうだった。 「あの、えっと……」 それからフッと自分の腕時計に視線を落とした彼女と同じく、 忍も自分の時計に目を向ける。 確かに、暦の上では春に足を踏み入れた。 だが実際は、昼間の日差しにこそ温もりが濃くなったとはいえ、 日が落ちれば気温は急降下。 まだまだ自己主張をするかに、冬の顔に逆戻りする。 そして今、時刻はもう8時過ぎ。 つまり、もし彼女が残業も寄り道もせずに ここに来たならば、2時間近くは待っていたことになる。
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