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だがその途端、彼は、彼女の唇が微かに震えていることに気付いた。
そしてそれと同時に、彼女の話を遮っていた。
「那々ちゃん、いつからここにいたの?」
えっ……?
当然ながら、今度、言葉を詰まらせたのは彼女のほうだった。
「あの、えっと……」
それからフッと自分の腕時計に視線を落とした彼女と同じく、
忍も自分の時計に目を向ける。
確かに、暦の上では春に足を踏み入れた。
だが実際は、昼間の日差しにこそ温もりが濃くなったとはいえ、
日が落ちれば気温は急降下。
まだまだ自己主張をするかに、冬の顔に逆戻りする。
そして今、時刻はもう8時過ぎ。
つまり、もし彼女が残業も寄り道もせずに
ここに来たならば、2時間近くは待っていたことになる。
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