夕凪市殺人事件

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夕凪市殺人事件

 俺は故郷の夕凪市に帰省した。年末年始は用事があって帰ることが出来なかった。列車を降りると肥やしの匂いが漂ってきた。田舎の匂いだ。   改札を抜け、階段を降りる。雨がポツリポツリと降り始めていた。「あれ?ヤスじゃねぇの?」   声がしたので振り替えると、猿みたいな懐かしい顔がそこにはあった。  「納豆じゃねぇか」藤田直人、幼馴染みで小学校のとき3年以外は同じクラスという腐れ縁だ。直人だから、納豆と俺は呼んでいた。 「俺は朝御飯のお供か…あれ?こっちに住んでたんだっけ?」  「いや、今日と明日休みだからさ、ちょっくら寄ろうと思ってね」  「納豆は仕事は何してるんだっけ?」  「獣医だよ。あれ?言わなかった?」   そうだった、こいつは大の動物好きだったな。小学4年のときに校庭に、怪我をした雀がいた。納豆は必死に手当てをして空に返してやったのだ。  「いや、初耳だよ」  「そういうヤスは?」  「しがない派遣だよ。もー、やんなっちゃう」  「派遣じゃ生活出来ないだろ?そうそう、メデューサが結婚したよ」   略俺たちのマドンナだった。背がスラーッと高くて、とても優しい子だ。 「マジで?」  「青年実業家だってよ。俺たちも負けちゃらんないね」三毛猫が納豆に近づいてきた。「おーおー、可愛いなぁ。ナニナニ?近いうちに誰かが死ぬって?」 奴は動物の言葉を理解できる能力を持っていた。死ぬって、誰が死ぬのだろう?  「ヤス、身の回りに注意しろよ?じゃあな?」   そう言うと走って行ってしまった。   家に戻り、ブラタモリを見ながら親父と飲んだ。道後温泉についてやっていた。こたつの温度がどことなく熱い。親父は芋焼酎、俺はスーパードライだ。「結婚はまだしないのか?」  「帰ってくるたびに聞くなよ」  「そうそう、この前近くをジョギングしてたらさ、大量のオタマジャクシが降ってきたんだ」   ファフロッキーズかも知れない。竜巻や飛行機の貨物室が開いていることが原因らしいが謎は深まるばかりだ。酔っぱらって空を飛ぶ夢を見た。   スマホの音で目を覚ました。納豆からだった。  【大変だ、オラウータンが殺された!】   オラウータンは、バスケ部のチームメイトだった。  【イヤ、自殺だな?】  獣医だから事件現場にいるのか?米から花粉症薬ができる時代だ。獣が人間と学校で生活するのはもはや当たり前だ。
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