2人が本棚に入れています
本棚に追加
久々の依頼
2月に入った。沖縄で雪が降るという、異様な事態が発生したりした。俺は黄金町にある肥料工場に派遣されていた。黄金町は横浜駅から京浜急行で、4つ目の駅だ。かつては売春街として知られ、戦後は赤線地帯として栄えたが2000年初期の大摘発により、安全な街に生まれ変わった。
工場では密かに爆弾が製造されているという噂があった。まっ、俺のような使い捨ての駒にはどうでもいい話だ。
夜10時からの勤務で、朝の7時に業務が終了。フラフラになりながら夕凪のアパートに戻り、シャワーを浴びる。眠ろうとすると犬の鳴き声に邪魔された。仕方なくウィスキーを飲んでいるとコードレスが鳴った。「ハイ!」
仕事の依頼だった。依頼人は『武蔵屋』の溝尾国昭という男だった。『武蔵屋』いわゆる闇金業者だが、ネット掲示板に【溝尾を殺害する】と書き込みがされたようなのだ。10万で仕事を引き受けることにした。
夕凪駅前にある事務所に赴いた。溝尾は、竹内力にクリソツな強面だった。
「解決できなかったら東京湾に沈めんぞ!」
俺はアクセスログの解析を開始した。 WindowsOSはOSの基本情報や、ソフトウェアの拡張情報を【レジストリ】というデータベースにひとまとめにしてある。
アプリケーションをインストールしたり、USB対応機器を挿入するたびに書き換わる仕組みになっている。データベースの作成日時や、保存日時が記録されるのだが、レジストリの作成・保存日時と、Windowsに記録されたOSの動作履歴を時系列に並べることにより、どのIPアドレス(コンピューターの住所)から発信されたかを調べることが出来る。
発信者の正体を知り、寒気を感じた。南郷春男という保土ヶ谷に住む老人なのだが、溝尾からの執拗な取り立てにあい2年前の冬に首吊り自殺を図っていたのである。
「透明人間?」
週末金沢に出掛けた。古い友人に、妻木という科学者がいた。彼なら事件を解決出来るかも知れない。妻木は、金沢郊外にある内灘という地域に住んでいた。金沢港に面した河北潟にかかるサンセットブリッジは印象的だった。
「僕たちが物体をすり抜けられないのは量子論の存在がある」難しくて理解出来なかった。
翌朝、夕凪郊外にある大黒山で溝尾の首吊り死体が見つかった。奇しくも南郷の死んだ場所だった。
『死ねって言われたから死にました』
南郷の遺書にはこうあった。
最初のコメントを投稿しよう!