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それらは、根が深く――。
「春陽(しゅんよう)っ……! 立ってるだけなら、退がれ!」
戦闘の邪魔になる。分かってはいる。でも、身体が動かなかった。前にも、後ろにも足が動かない。気が付くと、目の前には赤茶色の牙が迫っていた。
「危ないっ」
後ろから引っ張られたと思うと、樹希(たつき)の腕の中にいた。そして、顔に何かが飛んでくる。
見上げると、樹希(たつき)の顔半分が真っ赤に染まっていた。首から、ボタボタと血が流れ出ている。
「樹希(たつき)、樹希(たつき)。しっかりして、大丈夫だから」
首から夥しい血が流れ出てくる。それを必死に抑え、周りに助けを求めた。でも、散り散り人々は近くにいない。応援もまだ来ていない。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
「大、丈夫……ごほっ――よ……ぅ」
喋るたびに、息を吸うたびに血が口から溢れる。ひゅうひゅうと呼吸音だけが響く。まだ何かを言いたそうにしていたが、やがて彼の体から力が抜けた。
「樹希(たつき)?」
呼びかけてみるが、何の反応もない。瞳からは光が失われていく。まだ、身体は温かいのに鼓動は止まっていた。
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