第二話

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「おや、先客がいましたか」  声のした方を見ると、時雨(しぐれ)が小さな箱を手に立っていた。栗色の瞳が私を見下ろしている。形の良い唇から、品のいい低く穏やかな声が発せられた。 「あなたは――本当に美しい紫色の瞳だ。局長の秘蔵っ子は……」 「中身は何?」 「時計ですよ。古い、古い。先刻、街中で暴れていたのを緊急退治したものです」 「貸して!」  小さな箱を時雨(しぐれ)の手からひったくる。蓋を開けると、見覚えのある時計が入っていた。それを手にした瞬間、背後から音が聞こえてきた。  ごり、ごり、ごり、ごり。  液体が落ちる音がする。きっと、血だろう。咀嚼音に混ざって、うめき声が聞こえた。腰に佩いた刀を手に振り返ると、それがいた。大ムカデが。  樹希(たつき)と時雨(しぐれ)は、いなかった。何故かはわからない。でも、大ムカデを退治すれば、私は2月4日から抜け出せるはず。そうすれば、きっと彼らは戻ってくるはず。  そう信じて、大ムカデへと斬りかかる。  その瞬間、大きい音が聞こえた。何度か聞いたことがある。これは、すべてをなかったことにする音。  カチリ、と。ひときわ大きく、耳についた。  ――秒針の音が。
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