バス、来たる。

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「あぁ、もう。何言ってんの私」 ここはバス停で、いつも同じ時間のバスに乗るおじさんとOLさんが近くに居てこの会話なんて丸聞こえ。目の前にいるこのお兄さんだって、名前すら知らない人なのに。あまりの恥ずかしさに、腕で顔を覆ってしゃがみ込んでしまう。    もうやだ。明日からこの時間のバスに乗れない。お兄さんにだって、変な子って思われたに決まってる。  いたたまれなくて、消えてなくなりたい、そんな気持ちでいた私の頭の上から降ってきたのは、くすくす笑う低い声。しゃがみ込んだままの私の手から、そっと封筒と一緒に小さな箱が持っていかれる。 「うん、特別な意味はないのは判った」  ……判ってもらって、良かった…の? なんだか不思議な感覚に陥りながらも、まだ恥ずかしくて顔を上げられずにいると、大きな手がぽんぽんと頭を撫でた。 「バス、来たよ。ほら」  その言葉に顔を上げた私の目の前には、手が差し出されていた。 「いつまでもしゃがんでないで」  やんわりと微笑む、サーモントフレームの奥の瞳。差し出された手を取って良いのか躊躇う私を急かす様に、もう一度「ほら」と柔らかい声が降ってくる。  躊躇いがちに手を伸ばす私と、眼鏡のあの人の前に――   ―――――― バス、来たる。
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