口は災いの元

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「あーあ、透明人間になれたらなあ…」 俺の不幸はこの言葉から始まったのだ。こんな事を口に出さなければ、あんなことがあったり、こんなことがあったりすることはなかったのだ…。 俺がこの言葉を言う9時間前、俺は学校にいた。そして授業を受けていた。 嗚呼、今思い返せばなんて平和な、そして素晴らしい日常だったのだろう!なんで昔の俺はそんな日常を素晴らしいと感じなかったんだ! …。 俺には一緒に帰ってくれるような友達はいないので、言葉を発する1時間前は、いつも通り猫のいる神社、〈八俣神社〉へ貢物を持って行ったわけだが、今日は見かけたことのない猫がそこに混ざっていた。 新入りか、と思いながら「おいで」と猫たちを呼ぶと、「にゃあ」と鳴きながら俺の元へ来た。これが不幸になる30秒前。 猫を膝に乗せたり、撫でながら俺はぽつりと呟いてしまった。言ってしまった。 「あーあ、いっそのこと、透明人間にでもなれたらなあ。」 そう言った瞬間、膝の上にいた新入りの猫が光り出し、辺りは白に包まれた。そうして俺の意識は途絶えた。 目を覚ますと、月明かりが新入りの猫を照らしていた。辺りを見渡すと他の猫はいなくなっていた。 「オイ!やっと目を覚ましたナァ!オイラは〈八俣神社〉の神、トラヂだ!よろしくナァ!」 猫がいきなり喋ったので俺は普通に驚いた。 「えっ、猫、しゃべっ、えっ?」 「オイオイ…、そんなに驚くことでもないよナァ? まあもう驚いたからいいよナァ! そんで本題だ。お前の願い叶えといたからナァ~」 そう言って強引な新入りの猫はどこかへ行ってしまった。 願いなんて言った覚えはないんだけどなあ…なんて思いながら頭を掻く。すると俺はあることに気づいた。 手 が な い ということに。いや、手だけじゃない。体全体がない。服が浮いている、ようにみえる。いや、厳密に言えばあるんだ(と思いたい…)が見てみると完璧にない。周りが綺麗に見える。しかし目を凝らして見るとうすーく見えないこともない(気がする)。 俺は、透明人間になりたいなどと呟いてしまったせい(ありがた迷惑なトラヂのせい)で、9時間前の平和な日常生活から、誰からも見えなくなってしまう、という非日常的な生活を過ごすこととなってしまったのだ。
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