腐った人間

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動物の臭いがする。 血肉のような生臭い臭いと汚物の混ざった、吐き気のする臭いだ。茶色と赤と黒を混ぜ合わせたような悍ましい臭いが僕の鼻を満たす。 大きな穴の空いた茶色い襖の向こうで、動物の鳴き声が聞こえる。声帯を限りなく狭めて絞り出したような声と、全速力で駆け抜けたみたいな荒い息遣い。規則的な水音がとても生々しかった。 僕はといえば月明かりを頼りに、国語の教科書を開いていた。小さな頃からずっと、高校に通うのが夢だった。高校生になれるなら、あとはなんだって我慢できた。せめて高校生になりたかった。生きるために、学歴が欲しかった。 高校の教科書は分厚くて、字は少し小さかった。教科書の重みより軽い、僕の人生だ。月明かりでは読めないその教科書の文字が楽しみで、期待に胸を躍らせる。 もう、耳には襖の向こうの音は届かなかった。 ようやく僕は高校生になる。 明日、僕は高校生になる。 それだけで今は十分だった。
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