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〈なんで笑っちゃったんだろう。泣き姿見て笑うなんて最低じゃないか〉
そんなこと言いながらも笑ってしまっている心がここにある。
けれども思う、きっと彼女の背中はいつもこんな感じなのだろうと。本当はとても弱いのに他人のために頼れる人であろうと一生懸命になり、最後には埃のように風に乗り、消えていく。
彼女の髪は肩よりも長めで、所々光があたって栗色に輝いている。
彼女は一息つくと花瓶に花を活け、こちらに向かって振り返る。
「こんな事じゃダメ、もっと頑張らないと。ママ、パパ、まだ唯を連れて行かないで・・・・・連れて、行かせない。」
―振り向いた彼女の目には、溢れて頬を流れることのない雫が溜まっていた。
彼女は私を見て驚愕の色を浮かべる。
そして、目尻に溜まった雫が頬を伝った。
彼女の手から花瓶が滑るように落ち、落ちた花瓶は真に響くような音を奏でる。花は花瓶から体を出し、水が勢いよく流れ、静かに広がっていく。
(花瓶が落ちたよ・・・・・。止まってそのままじゃ足が濡れてしまう) 私は口を動かし必死に
訴え掛けようとするのだが、言葉は声とはならなかった。
彼女は落ちた花瓶を気にもせず、頬を伝う雫を服の袖で拭い駆け足で近寄ってくる。
「ぴちゃ」彼女のズボンに水が広がる。彼女はズボンが濡れるのも気にしていないようで、
私に触れた。
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