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「だったら最初から置いてくりゃいいじゃないか。どうせ今日はここに来るってわかってるんだから」
「やだよ、ぎりぎりまで着けていたいんだもん」
菜摘は俯いてバッグの口を開け、丁寧にネックレスをしまい込んだ。
「これ着けてると落ち着くの。だから入る時に外して、出る時に着けるようにしてるから。いつも持ってないと」
ぎゅん。
と、一瞬全身が締めつけられる。こいつ、意識してこれやってるのかな。無意識だったら社会の迷惑だろ、それはそれで。時々、こんなんじゃ俺の身が保たないと思うことがある。
思いきりデレかけた顔を急いで引き締め、何事もなかったかのような平静な態度と声で何とかその場を取り繕う。
「わかった、それでいいよ。失くさないよう気をつけてよ」
「大丈夫、気をつけてるよ。…送ってくれてありがとう。また月曜日ね」
「うん」
手を振って部屋の中へ消えていく菜摘の背中を見送る。ばたんと扉が閉まり、俺と彼女の間は二日間に渡り閉ざされる。いつもこの瞬間が切ない。
俺はしばしその場に佇み、ため息をついてからゆっくりと階段を降り始めた。でも、あのネックレスは今でも菜摘の側にある。身につけてはいなくても、いつも持ち歩いてくれてるんだ。
その事実を胸の奥にしまって、気持ちが浮き立つような少し気が重いような、複雑な気分で俺は一人自分の家へ帰っていった。
ガタン、と大きな音でパイプ椅子が鳴った。慌てて目を向けると、菜摘が椅子から立ち上がってふらふらと部屋を出て行こうとして、眩暈に襲われたかのようにうずくまったところだった。
部室での何でもない雑談の場面だ。話の内容も他愛ないを通り越してはっきり言って下らないし(『史上最強のバカミスはどれか』って、誰しも一家言あって譲らないのでなかなか最終的な結論は出そうにない)、急に気分が悪くなるような要素は見当たらない。体調が悪かったっけ、と首を捻りながら彼女の側に寄ろうとしてはっと気づいた。部室の中に微かに響いている音。
モーターの回転音。
ちゃちな安っぽいハンディ掃除機だ。机の上の消しゴムの滓なんかを吸い取るやつ。数日前に部員の一人が何気なく持ち込んできたんだった。部屋にあったけど全然使ってないから、と言って。誰かがそれを何気なく手にとって戯れに作動させている。…この音か。
俺は菜摘の手を取って立ち上がらせた。
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