第7章 キレイになりたい

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そこではたと俺の方を見る。 「新崎もまだ終わりじゃないよね。わたし、大丈夫だよ。別に一人で帰れる。近いし」 「馬鹿、そんなことさせられるわけないだろ。一人で帰らせる方が余程気になって落ち着かないよ」 コーヒー飲みきれなかったら無理しないでいいぞ、と声をかけると、飲めるよ、と口を尖らせて言い返してきた。そのくせ、もう一口つけた後は缶を手のひらで持て余している。 まだ少し顔色も悪い気がするし。 「とにかく帰ろう。ゆっくりでいいから、歩けるか?それともありさの授業が終わるまでここで一緒に待つか」 菜摘は静かに立ち上がった。 「大丈夫、歩ける。部屋で休むよ。ありさには平気だってメールするから」 俺は問答無用で彼女の腕を取った。何て言われたって送っていくからな。 手のひらに菜摘の身体の微かな強張りを感じたが、彼女は何も言わなかった。恐らく跳ねのけたら悪いと思って意志の力で自分を抑えてるんだろうな。何だか可哀想で、やるせなかった。 いつか菜摘が身体と神経を張り詰めることなく、自然体で俺の隣でくつろぐ姿を見せてくれることなんかあるんだろうか。それとも俺はもう最初から、菜摘にとって安らげる存在にはなれない運命なのかな。 なかなかに切ないものだな、と思いつつ菜摘が拒まないのをいいことに、俺は彼女の腕をしっかり捕まえて二人並んで帰路を急いだ。 「…菜摘」 誰だっけ、この声。朦朧とした意識下で思う。考えが全然まとまらない。すごく近くで聞こえる、囁くような甘い声。こんなに距離感が近いのに、よく知らない人。ほとんど初対面の人。でも。 身体の奥の奥を、素手でぐちゃぐちゃにかき回してくるような声。あたしの中を滅茶苦茶に乱してくる声。 もう何も考えられない。自意識や自尊心なんか、とうに手放した。 「そうだよ、何にも考えなくていいんだよ」 甘い声で耳許で話しかけてくる。その言葉が空っぽの真っ白な意識に心地よく入ってくる。 「自分なんか忘れて、ただ身体を開いて感じればいいじゃん。…どう、すごい気持ちいいでしょう?」 「うん…」 わたしは素直に頷き、甘いため息をつく。本当に、…すごい、いい。どうしようもなく切なく、身悶える。身体の芯が蕩けそう。 いつの間にか手や足の縛めは解かれている。 無理やり取らされた屈辱的な姿態も、身動き出来ない状態もない。なのに逃げ出すことも相手を押し退けることもない。
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