第7章 キレイになりたい

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多分、未熟な俺の表情には受けたショックがそのまま表れていたんだろう。菜摘の顔に痛々しい色が広がった。 「…ごめん」 「いや、こっちこそ」 俺たちは何とも言いようがなく、しばらく向かい合ったままその場に佇んでいた。 そこで、ふと気がついた。さっきより雨がひどくなっている。菜摘の髪が全体にしっとり湿っぽくなってきた。本人は全く気にかけてないみたいだ。 俺は我に返って、少し慌てた。このままじゃ菜摘に風邪をひかせてしまう。 かと言って、急な雨で傘も持ってない。俺は辺りを見回し、手近な建物の屋根の下を指して菜摘を促した。 「とりあえず、ここに入ろう、菜摘」 「うん」 大人しく頷く菜摘。二階部分が張り出したその下の広い場所がガラ空きになったその空間に二人で避難する。足を踏み入れて気づく。ここって、昼間は店舗なんだ。片隅に雑に寄せられて全体にとりあえずネットが被せられている商品は、山のような鉢植えの植物だった。俺の背丈より高い植木から、こんな小さいの簡単に持ち去れるだろ!と思ってしまうような花の鉢まで、まるっきりジャングルだ。 何だか都会のエアポケットみたいな不思議な空間だが、二人分雨宿りするくらいには充分だ。とにかく菜摘を隅の柱に寄りかからせ、雨を拭くものを探す。 「ハンカチ、…か、タオル、と」 そんなものあったかな。ずいぶん以前に入れっぱなしにしといたやつがあったかも。俺の探しているものに気づき、菜摘が自分のバッグからごそごそと小さなタオルを取り出した。 「…これ?」 「いや、お前使えよ。俺は全然大丈夫。今日そんな寒くないし」 差し出されたそれを手で押しとどめると、菜摘は持って行きどころがない、といった様子でただタオルを握りしめた。いやそうじゃなくて。 「頭も肩も濡れてるじゃんか。ちゃんと拭けって。風邪ひくぞ」 ついさっきまでの俺だったら、多分深く考えずに菜摘の手からタオルを取り、遠慮なくごしごしと頭や肩、頬を拭っただろう。でも。 あんな風に、汚れたものみたいにまた跳ね退けられたら、と思うと。もう勇気が出ない。菜摘の近くに寄れない。 菜摘も俺の変化に気がついた。茶色の目が微かに大きくなり、 躊躇うように口が開いた。 「…ごめん。さっき…」 「いや。俺が悪かった、…と、思う」 そして二人して俯いて黙り込む。 そうだよな。俺はのろのろと考える。
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