第7章 キレイになりたい

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「言っただろ。お前が一人だって感じた時はいつでも手を握るって。俺の体温はいつでもお前のためにあるから。それを忘れないでくれってこと。もう二度とは言わないからな」 菜摘は少しぽかんとした表情で俺の言葉を聞いていた。ひょっとして、さっきはあんまり頭に入っていかなかった?ちょっとがっくりする。俺、恥ずかしいの我慢して結構頑張ったのに。 「もしかしてさっき、全然聞いてなかった?」 「聞いてたよ、ちゃんと」 「じゃあ初めて聞いたみたいな顔するな。とにかくお前が必要な時は絶対側にいるから。てか、お前が要らないって言っても側にいるよ。しばらくの間は」 「うん」 菜摘は穏やかな、優しい表情で俺を見つめた。小さな繊細な唇から出てきた言葉がこれ。 「…じゃあ、とりあえず、いいですよ。側にいても」 そうかい! 俺は肩をそびやかした。これくらいでいちいち挫けてられるか。菜摘の側にいるって結局こういうことだってわかってるよ。 「許可下さってありがとう。側にいさせて頂きます」 「うん。よかったね」 生真面目な顔で相槌を打つ菜摘。こ憎らしいなぁ。可愛いけど。 俺は立ち上がり、菜摘にも手で立つよう促した。 「じゃあ、とにかく家に帰ろう。そのままじゃ風邪引くよ。風呂に入ってあったかくして早く寝ろ。そしたら元気も出てくるだろ」 「そうだね。ありがとう」 素直に立ち上がり、頭の上に載っていたタオルに気づき軽く拭いてバッグに戻す。それから言わずもがなの台詞を付け加える。 「お風呂のときは側にいなくて大丈夫だからね」 「…当たり前だろ!」 変なこと言うな、わざわざ。 「雨まだ降ってるね。どうする?」 「さっきよりは雨脚弱まってきたから。むしろ今のうち行くぞ、気合いで」 軽口が出てくるようになり、すっかりいつもの調子に戻った気がする。でも、走るように促す時、彼女の背中や肩に触れられない自分に気づいた。今までのように気軽には近寄れない。 笑って言葉を交わしながら、やっぱり考えてしまう。『汚れてる』ってどういうことだったんだろう。結局その意味はよくわからないままだった。 菜摘が『ある』って信じ込んでいる汚れを、俺が取り除いてきれいにしてあげられたらいいのに。そんな方法はないのかな。 それとも、俺なんかにはそんな複雑なこと、手に余るのかなぁ。 童貞だし。 …はぁ。 「藤川、それ。…金属」 「え?」
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