第7章 キレイになりたい

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彰良がこっちを見もせずにぼそっと小さな声で言う。何のことかわからずきょとんと見返してしまった。 「首のとこ。…金属、気になる。…外してもらってもいいかな」 「ああ…」 そ、…か。わたしは咽喉もとに手をやった。細い銀の鎖が指に触れる。彼は金属のものが大体苦手だ。本人は勿論だが、わたしも何となくつられて貴金属系のものを身につける習慣が今までなかった。彼に遠慮してたわけでもないけど、特に機会もなかったし。 でも、そうか。彼と接触するわけじゃないから大丈夫だろうと安易に考えてたけど、そういうもんでもないのか…。 わたしは抗わず、大人しくそれを外した。バッグの内側のポケットにそっと丁寧にしまう。絶対失くさないようにしなきゃ。この部屋を出たらまたすぐつければいい。 このネックレスに関しては、ありさも何だか微妙な反応を見せた。最初は 「似合うじゃん、可愛いよ。もっといつもそういうの、着けたらいいのに」 と褒めてくれたのに、新崎にもらった、と言った瞬間表情をさっと変えて 「…何なのあいつ。彼氏でもないのに、普通そんなん贈るかなぁ?図々しくない?」 と不満げに呟いた。 …そうか、こっちは金属だからとかデザインがどうとかじゃなく、もらった相手が問題なのか。でも、彼氏じゃなきゃこういうの駄目なら、わたし一生貴金属のもの人からもらえないけど…。って、そういう発想が問題なんだった、そもそも。そこは反省しなきゃならない。 でも、これに関しては、セックスの話とは全然違う。バッグの口を閉じながら心の中で呟く。彼がくれないんなら誰でもいい、んじゃないから。誰からもらったかは大事。そこが今までと違う。 新崎がこれをわたしにくれた。 そのことを思い起こすと、気持ちが和らぐ。これが触れている部分から、自分が少しだけきれいになれる気がする。無論ビューティフルじゃないですよ、クリーンの方。内部の奥の奥までは無理。でも、表面だけでも。 これはわたしのお守りみたいなものだ。これ以上汚れに自分を浸食されないための。汚れを今ある範囲で食い止められる気がする。 だから大切にするんだ。そう心の中で呟いて、バッグを彼から離れた部屋の隅にそっと置いた。 「じゃあ、また、週明けにな」 今ひとつすっきりしないながらも、土曜日彼氏の部屋へ送っていく習慣は何となく続いていた。菜摘には「もう大丈夫だって、心配性にも程があるよ」と呆れられていたが。
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