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「泉君、電話です。東中学校から。」
「あ、はい。」
あの野郎…何しやがった?
眉間に皺を寄せながらも冷静に返事をし、壱野は電話を取った。
「お電話代わりました、泉です。いつもお世話になっています。」
笑ってしまいそうなくらい丁寧な言い回しだ。
『お兄さん、仕事中に申し訳ない!藤井です。怜史なんやけどなぁ、2年とケンカしてもう手が付けられへんのや。』
藤井は必死に苛立ちを抑えて助けを請うように言った。
壱野は「あぁそうですか。仕事中の俺にわざわざ電話をしてまで愚弟の様子をご報告していただきご苦労様です。」と嫌味な返事がパッと浮かぶ。
首をぶんぶんと振り「すみません。」と頭を下げる。
電話を取った壱野の上司は、また泉の弟が何かやらかしたと察知しスケジュールを見直した。
『もうどうにもならへんさかい、お兄さん来てもらえへんやろか?』
お前の弟はもうどうにもならない、と言われている。
「はぁ、ちょっと待ってもらえますか。」
受話器を手で押さえて口元から離す。
「大丈夫?弟くん?」
「はい…今から学校来てくれって…。」
「今日はええやろ。行っておいでよ。午後からの講習も来週に回したらええし。」
「はい…すんません。…もしもし、今から伺いますんで。」
カチャ、と受話器を置く音が響く。
「来週の講習やったら市内まで行かなあかんで~めんどいのう。」
2歳上の同期が茶化してくる。
「ほんまや。もう、腹立つわぁ。」
笑って言ったが本心だ。
「弟くん何しやったんや?先生なんやて?」
電話を取ったおばちゃん上司が興味津々で聞いてくる。
どうせまた女性スタッフ内で噂されるのだろう。
「お前の弟はどうにもならへん言われましたわ。」
鞄と上着を持つ。
「すんませんけど、行って来ます。戻って来れたら戻って来ますんで。」
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