一生、契約。

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隠し撮りをされていた事にもショックを受けたけど 目の前で崩れるように藻掻き、喘ぐ禅を見て 目の奥に火花が飛んだ。 小さな音でも聞き逃す筈、ない。か。 ズボンの裾が少し引き摺られているのは ウェストが開いているから。 綺麗な足の指。 私は小趾の爪が昔から潰れていて無いに等しいから 松本先生の足趾が綺麗なのが羨ましく見えた。 そこからずっと辿っていくと、中途半端にブラリと下がった異物がテカテカと幕を纏っていて 奇妙な生き物のようだ。 整った腹筋、胸元にいくつかあるホクロ 喉の膨らみが心なしか揺れていて 完全に見上げた時 バッと音が鳴るくらいに手首を引き上げられて ズルズルと部屋の中へ連れていかれる。 もちろん、足に一切の力は入っていない。 「み、か……?」 禅のしっとりと濡れる低音が、恐々と掠れていて 「禅……」 目の前で溢れる涙はまだ張力を保ったまま 潤んでぼやけて、よく分からない。 ああ、元々右目はこうだった。 「見つかっちゃったねぇ、禅? 美果、どうして来たの? いい仔は早く寝なきゃダメだろ?」 いつもと変わらない笑顔で私を見下ろした先生。 口は開くのに、怖くて、怖くて、声が出ない。 「まぁ、今までバレなかったのが不思議か」 スイ、と禅の横に移動すると 黒い髪をグイと掴んで、私の正面を向くように顔を上げさせた。 「ほら、禅、美果が来たぞ?」 上気した頬が色香を醸していた。 「せっかくだ、美果、おいで」 いやだ、と首を振っても 聞いてはもらえないだろう。 テレビの画面に映った自分の痴態 禅の色んな所が濡れていて、悲しい筈なのにクラクラした。 蒼と碧の瞳が私を誘う。 私はぐっ、と足に力が入ることを確認して 一歩、踏み出した。
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