一生、契約。

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先生の声が聞こえる。 とても、普段の先生とは思えない。 私を辱しめる時でさえどこか面白そうなのに 今はそんな雰囲気微塵もない。 くぐもった声が畝るように絞り出されるそれは 現場を見なくても分かるほど苦しそうで 先生はそれをまだまだ強要するような事を口にしていた。 見ちゃいけないし 聞いてもいけない 帰らなきゃ。 クルリと向きを変えて階段を下りようてして 足を止める。 え。 え? テレビから? テレビから聞こえて来るその音に膝がガクガクと笑いだした。 『イヤらしいな ……禅も呼んでやろうか』 『い、やっ、いやだっ』 『禅が好きか』 な、なに、これ。 覚えがあった。 これは、こないだの こないだ、先生と…… 「見てみろ、禅 美果はお前に知られたくないんだとよ」 「ぐっ、う、えっ」 耳を疑う。 「健気だなぁ、お前が好きで仕方ないんだよ そんなお前は妄りに狂う美果を見ながらこうされるのが好きなのにな」 いやだ、なに。 「あがぁっ」 きっと 部屋の中にいるのは間違いなく二人。 松本先生と、ぜ、ん? 禅がどうして…… 見ちゃいけない。 聞いてもいけない。 これ以上はヤメタ方がいい。 分かってるけど ここまで聞いて、真相を確かめないなんて、無理だ。 「なぁ、禅 美香の顔、凄いだろ。 お前今日は美果とヤッたんだろ? どうだった? その後にこうやって突っ込まれてるなんて、どうなんだよ」 光が縦に飛び込んできたその向こうの景色は ある程度想像していたにも関わらず それはそれは驚愕を誘い、私の腰骨から自立を奪う。 バタン、と小さな音が立った。 ……仕方なかった。 震えるのは最早膝だけではなくて 肩も、腕も、お腹の底からくる今までに経験した事のない大きな震えに、思わず口許を両手で隠した。
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