一生、契約。

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「ああ、瞳孔が開きっぱなしだからな?」 「ぁっ」 「楽しそうだな、松本」 泥濘を歩いているみたいな音が自分の身体の中から聞こえる。 「ひぃっ」 同時に埋まる長い指は、持ち主が違えば動きもバラバラ。 悪戯の仕種も、感覚も、リズム感だって何もかも違う。 揃っている事と言えば 私のヤル気を最大限に引き出そうとしているところだ。 「美果は眩しいだろうけど我慢してもらおう」 きっと、私の目の事を話しているんだろうとお、もった、けど 「網膜、膨らまなかったのは?」 もう考えられない 「あぁ、多分美果の体質にも関係あるのかな」 「あ、イキやすいとか?」 「んんっ、んんんっ、」 体験が経験に着いていかずに オーバーフローする。 「バカ。 美果はアレルギーが異常に強い。 だから、デキモノが目の中にできたりする事で組織が崩れたのかもしれない」 「でも、美果は美果だ」 跳ねる身体は限界を超え 何時までも与えられる真っ直ぐな愛と少しだけ歪みまくった愛とを受け止め続けた。 あのとき、もし知らずに目の具合を放置して失明したとしたら。 もし、もっと早く気付いて他の病院へ駆け込んでいたとしたら。 いずれも、こうはなっていないだろう。 あの日、蒼と碧の瞳をそれぞれに持つ二人に出会った瞬間から 私の人生は決まっていた。 私の眼鏡は右はただの度無し。 左は矯正して1,0見えるように調整してある。 全てがぼやけていても光は感じる事ができる右と 輪郭や境界線はハッキリと分かる左と 私が生きている限りは先生に管理してもらおう。 そして先生がいる限り、禅とは離れないで済む。 これは、一生。 続く契約。 【Fin】
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