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広い背中に指を這わせて、そこを辿っていく。
墨が、どうやって肌に染み込んでいるのかがいつも不思議で仕方なかった。
「まだ気になる?」
優しい声は私をどこまでも勘違いさせる。
しっとりと耳に馴染む低音。
「何で洗っても落ちないんですか」
墨の線が膚から模様を浮かび上がらせているように見える紋は、この人の優しさにピッタリの画だ。
「またそれ?」
こっちを向いて、私の頭を撫で
直ぐ目の前まで迫った唇をゆっくり
ゆっくり
押し当てる。
拡がる熱と渦。
これに巻き込まれたら即、アウト。
口のなかに仕込まれた"しびれ薬"が作用する。
唇だけの触れ合いでこんな事になってしまうなんて、人の身体って……私の身体って、恐ろしい。
少しずつ剥ぎ取られる服。
一枚だけになる頃にはもう呼吸の必要性が何なのかさえも忘れるくらいになって、本能までもが丸裸にされる。
無言で施される不埒な戯れ。
そこには、激しい情愛が常に見えて隠れてを繰り返す。
蒼い瞳を隠しながら緩やかな微笑みで、すっかり出来上がってしまった私を包むのは、これから事が本格的に行われる合図。
恥ずかしさに襲われて、慌てて俯いた。
足首で丸まった布が視界に入った途端、より羞恥を煽られる。
ぬらり、と光ったクロッチ。
私のあられもない欲が塗りたくられていた。
「美果(ミカ)……」
「は、ぃ……」
「こっち見て」
何時までたっても慣れないぐらいに恥ずかしいのは
後どれくらい続くんだろうか。
彼に蝕まれた私のナカはパンデミック。
どんどん拡大していく。
いつかは離れなければならない人をいつまでこうして、抱き続けられるのだろうか。
スルリと目許に伸びてきた掌が私の最後の鎧を外す。
眼鏡がないとハッキリとは見えない。
だけど、後は全部身体が覚えているから
ぼやけてても大丈夫。
高梁 禅(タカナシゼン)は、私とは生きている世界が全く違う。
だからこうして限られた時間に
不定期な逢瀬を重ねて、お互いの報われない欲を満たす、ただそれだけの関係だった。
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