一生、契約。

3/13

1570人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
************ 「うん、異常なし」 「まぶしっ」 右目だけに異様な眩しさを感じるのはいつもの事だ。 「ああ、ごめん」 松本先生はゆっくりと自分の後ろのブラインドを下ろした。 西陽が射し込む診察室で月に1度、第2木曜日 まるで同じ事を繰り返す。 私が眩しいと言うのも 先生がそれでブラインドを下ろすのも そして、こうして密事(ミツゴト)が始まるのもいつもの事だ。 「美果、これ付けようか」 渡されたのは赤いエナメルのベルト。 内側がファーでくるまれていて、首に擦れても傷が出来ないようになってるんだ。 首すじに先生の指が所々擽るように踊る。 服を全部脱いだ私の身体は部屋を埋める西陽の色と、高揚する血液の色とで紅い朱色に染まる。 少しだけキツめに絞められたベルトがクイと引かれた。 「美果はいい仔だ」 身体を確認するように、先生の視線が這い どんどん上がってくるテンションに比例して ジワリと染み出したモノがドロドロと流れ出す。 松本先生は、私を失明の危機から救ってくれた人だ。 私の右目は、明るさや物体の影は感じられるもののそれが何かを捉える事はできない。 それに伴い左目の視力は今では0,1を下回り 眼鏡無しでは何も見えない。 "もう少し遅かったら、全く見えなくなっていた" 見えない、のと 見える、の違いは何かと問われたら それは、光を感じられるかどうかなんだ。 光を感じられる私は、見える、んだ。 先生は暫く私を眺めて、微笑む。 綺麗な碧の瞳をした松本先生はこんな優しそうなフリをする癖に、非道く私を辱しめる。 ベッドでなんてさせてもらった事はない。 自分で開いて 自分でかき混ぜて 自分で登り詰めて 喘ぎ 喉を詰まらせ 診察室のタイルを水浸しにしてそのまま繋がる。 「イヤらしいな ……禅も呼んでやろうか」 禅、と聞いて背筋が縮まる。 「い、やっ、いやだっ」 激しく首を振る。 振ったのは首だけじゃない。 「禅が好きか」 腰に指が食い込み、その傷みを振り切るくらいにそこを擦り付けた。 バレたら終わりだ。 バレたら何もかも終わる。 私が松本先生とこうしている事は 禅には秘密なんだから。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1570人が本棚に入れています
本棚に追加