一生、契約。

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みんなは口を揃えていいな、と言う。 旦那はリッチな開業医。 仕事は止めなくてもいいと言われ 自由な時間も山ほどあって。 何も不自由なく過ごしていると思われている。 そりゃそうか、そう見えるよね。 「そんな事ないのにな」 この結婚は、契約だ。 半年前に松本先生と入籍したのは、禅と一緒にいる為。 "お前に幸せを授けてやろうか" 何度めかの診察で言われて 私は二つ返事で了承した。 禅と一緒に居たいからだ。 禅はとても誠実な男だ。 私を囲えば、必ず危ない目に合わせてしまう、と。 囲う、というのは言わば愛人。 禅はまだ結婚はしていないけど、ちゃんと決まった人がいた。 彼の世界は私には不思議な事ばかりで 例えば愛人がいて当たり前のところなんかは理解に苦しむ。 だから松本先生が私に提案した。 「俺と結婚すれば、患者としてくる禅と会えるだろう? ちょうど俺も身を固めなきゃならなかったんだ」 眼科学会で最年少幹部役員の席を獲得する為には、既婚のラベルがあった方が優位なんだそう。 お互い持ちつ持たれつだ、と。 願ったり叶ったりの筈だった。 松本先生とは寝室も別だし 病院以外では何をやっているかさっぱりわからない。 先生がこんな私のような身寄りもない、クレジットもあるか分からない私を傍に置く意味は 虫除けなんだと言う。 私利私欲にまみれた鬱陶しい女より 自分に興味がなく、口出しもされない関係の女がいいと。 ま、私も先生には感謝するけど どうでもいい。 とにかく、私は誰かのものになる事で 普通なら関われない禅と交わる事ができる術を手に入れた。
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