はなのきちがい

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幾重にも 重なった花びらは中心から 赤き命の生まれ出づる 指を 指しこめば外へ外へ うねる波動は螺旋を描き 天動説の 地のはてに落ちる海水のように 最外の花びらは剥離して ひらりひらりと落ちるなり 例えば薔薇は、こんなふうに人を喰らう ほろ酔い月の 淡く輝く宵の園 薄紅桜の余韻浸け 視界をさらさら覆いゆく いたずら少女の指のよう 吐く息に乗った花びらは しゅっと肺まで潜り込み 降り降り積もる幽玄の 面影母にてを引かれ くぐった入学式の朝 旅立ちの花 さくらばな 桜が息を奪うのはこんなふうに。 筈なのだが、この度は様子が違っていたようで。 数年を経て なお異彩を放つ、そんな話のひとつ。
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