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大先生は、離れにいた三人の女性を連れ出しました。
心身共に弱っていましたが、新しい風と水を替えれば、あるいは。まだ彼女らは若いのですから。
しかし息子は二度と世に出せぬ。
大先生は、引導を渡すのが自分であるということはせめてもの温情だと思っていたのです。が、若先生はそうは思いませんでした。
一人の男として、花の才能に嫉妬した。だから若い芽を潰すのだろうとなじったそうです。
裁き人は、袋の口を開けて放り投げました。
若先生がそれを認識する前に、扉を閉じました。
大先生は、うずくまり。
すべてが終わるまでここにいると仰ったそうですが、「では3日」という裁き人の声にふらふらと立ち上がりました。
母屋で、奥さまがお茶を運び、お通夜のような時間が流れました。
いえ、お通夜というのは以外と賑やかなのですが。
故人を偲ぶ語らいもあって和やかといってもいい瞬間もあるにはあるのです。
ここにあるのは沈黙。
離れにあるはずの叫びも花虫が食うのでしょう。
「あれは、何なのですか」
ぽつりと奥様が言いました。
花虫とは、正式な名ではない。花のような、虫のような。
奥様も若いときから花の手練れですので、一通りの知識はあります。
「さあ。皿屋敷のあとに菊虫が発生したという話もありますし、女の念には花虫が合うのですよ」
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