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彼女が現れるのは決まって13時
俺が譜面を広げて弾き始めると同時に奥の階段から上がってきて
いつもの定位置に静かに座る。
背を向けて座るからここからは表情は見えない。
ストレートのロングの髪を背中に下ろして
彼女は決まってエスプレッソを頼む。
そしていつも一人だった。
俺の演奏が終わる16時までそこにずっと座っていて最後の曲の辺りで階段を降りて帰って行く。
そんな事ももう気がつけば1年・・・
ウォルナットのピアノの鍵盤が今日はやけに軋む。
大体、装飾用の猫足のピアノに自動演奏の器具がつけられてるんだからいい音色が出る事なんて期待出来る訳がない。
コーヒーの香り
木漏れ日の光
ホールの開放感
家具の一部、お飾りの一部、演出の一部、
俺はほんの装飾用のエキストラ…
なんかそんな感じが不思議と嫌いじゃない。
『お飾りのピアニストなんてよくやるよな』とピアノ科の同期生に言われた事も有るけど
例えどんな状況にせよ
人に喜んでもらう事に最高も最低も無いって俺は思ってる。
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