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機魔國、第3魔法兵団ハウライト部隊詰所の仮眠室。
ふらふらと扉を開けて入り込む女の背中は老婆のように丸まっていた。因みに彼女はまだ20代の前半、花咲く年頃である。
誰の私物かもわからない書物やら服やら酒瓶やらを蹴り飛ばして部屋の道を開け、途中で毛布を引っ張りだすとまっすぐ仮眠用の寝台へと倒れ込んだ。
「ああ、もうコンチクショー…」
ドロシーは花咲く女性とは思えないどすの聞いた声で悪態つくと大きくため息をついた。
先ほど来た上司ハウライトの手紙のせいで漸く来るはずだった長期休暇が先延ばしになった。実家から山のような怒りの手紙への返事を考えておかなくてはいけない。これは何度目だろう。一年に一度帰れればいいと思ってはいたがもう3年は家族の顔を見ていない。兵団に入る前に引き取った従弟たちはどのくらい大きくなったろうか。体の弱い父母は病になどなっていないだろうか。暇さえあればこうやって故郷を思っている。ああ、帰りたい。
ドロシーは突っぱねたい気持ちでいっぱいだった。しかし、手紙を渡したハウライトの副官ラピスに嫌です、とは言えなかった。自分がやらなければ彼女は自分の代わりに寝る間を惜しんでこ空いた穴を埋めるだろう。この人の命を縮める原因になったと言われ毎晩あの青い顔にうなされるとか…考えただけで寒気がする…。
「掃きだめ第3兵団でこんなにお仕事があるなんてどんな貧乏くじなのよ…まったく」
ドロシーは時空魔法が実在するなら絶対したいことがある。
上官ハウライトの言葉を信じた数年前の自分の頬を平手打ちにして、土下座して、泣きながら「こいつの下で働くのだけはやめてくれ」と頼む。いや、引きずってでも他の上官の元へ連れていく。…本当に時空魔法実在してくれないかしらと祈りながらドロシーは仮眠に就いた。
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