残されたもの

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ーーーーーーー ーーーーー 時差のせいもあって翌朝は5時に目が覚めた。 ひげを剃ろうと洗面所にたつ。 やっぱり、何か違和感がある。 何だろう。 ちょっと考えて気がついた。 いつもは鏡の脇に置いてある香奈の使っている電動歯ブラシがない。 そういえば、彼女のコップもない。 旅行にでも行ったんだろうか? キッチンに戻ってさらに気がついた。 調理台の上に並べてあったよく使っていた料理本がない。確か10冊以上あったよな? 窓の脇に飾っていたクマのぬいぐるみもない。 あれは初めて二人で行った九州の旅で買ったんだ。 そんなものまで旅行に持っていったのか? 急いで洗面所に戻り、普段は開けたことのない彼女の使っているほうのキャビネットの扉を開けた。 中には何も入っていなかった。 「マジかよ……」 祈るような気持ちで、キッチンに戻って食器棚の扉をスライドした。 鍋類はある。でも彼女が毎朝使っていたコーヒーカップがない。箸もなかった。 「嘘だろ……」 もうほとんど小走りで、昨日は眠くてろくに見もせずにベッドに飛び込んだ寝室のドアをあけ、クローゼットのドアノブを勢いよく引っ張った。 中は空っぽだった。 「どういうことだよ……」 もう答えは出ているのに、一縷の望みを賭けて、玄関脇の戸棚をあけた。 彼女の靴は全て消えていた。
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