残されたもの

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ーーーーー ーーーーーーー 「探したんですか」 「もちろん。携帯に何度も電話しましたが、やっぱりコール音が続くだけで。メッセージにもメールにも返事は来ませんでした。というか既読マークがつきませんでした」 ーーーーーーー ーーーーー 翌日、月曜日になると本社に連絡を入れ、体調が悪いことにして休みをもらい、まず彼女の勤めていた花屋に向かった。 1ヶ月も前に辞めていた。そんな話は聞いてなかった。 故郷に帰ると言っていたというが、住所まではわからないと言われた。 いやもしかしたら、教えないでくれと言われたのかもしれない。 店先に並ぶパンジーの鉢植えの花が、寂しそうに冬の風に揺れていた。 ーーーーー ーーーーーーー 「故郷ってどこだったんですか」 「ここですよ」 「え、じゃあ彼女も富山県の出身!? 」 「ええ。私の家族は私が小学校の時に東京に出てきてしまいましたが、彼女は大学に入るまでここでした」 「富山のどのあたりなんですか? 」 「氷見線の駅の近くだと言ってましたが、それ以上はわからなかったんです。信じられないでしょう? 6年以上もいっしょに暮らしてほとんど夫婦みたいな生活をしてたんですよ? 」 はは、と乾いた笑い声を漏らすと、檜山さんはワインのおかわりを注文した。
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