残されたもの

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ーーーーーーー ーーーーー ぶち。 なんだよ、つけた途端切れやがって。 まっくらな洗面所にたたずむ。 「おい、電球切れたぞ」 声を出して思い出した。 ああ、いないんだっけ。 ずきっ、と胸の奥を刺されたような気分になる。 けれど暗いままでは身支度もできない。 買い置きの電球はどこだ? 家中探しても見つからない。 あいつ、どこにしまっていたんだろう。 あった。玄関の上の戸棚だ。こんなにたくさん。 ああ、そういえば……。 『なんだこの電球の山』 『ディスカウントストアでね、安かったのよ』 『あの安売りのとこか。普通ああいうところではトイレットペーパーとかを買いだめするんじゃないのか』 『電球だってけっこう切れるのよ。達は替えたことないからわかんないでしょ』 『へーへー、わかりませんよ』 ーーーーー ーーーーーーー 「電球ぐらい替えてあげなかったんですか?」 「いつも私が気がつく前に替えてあったということなんだろうね」 アルコールが回ってきたのか、檜山さんの口調がくだけてきた。 「そういう君は、彼女の部屋で替えてあげたことはあるのかい? 」 「ああ、ないですね。切れたことないですから」 「いや実は切れてても、気がつかないだけなのかもしれないぞ」 そうなんだろうか……? というか、僕に彼女がいるってなぜわかったんだ?
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