残されたもの

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ーーーーーーー ーーーーー 毎晩、家のドアを開ける時、もしかしたら……とわずかな望みを持ってノブを回した。 そして毎晩、やるせない失望感に捕らわれた。 始めのころは、不便さもあって怒りの気持ちが強かった。 出て行くくらい不満が溜まっていたなら、まず俺にぶつかれよ。 言い訳も謝る機会すらもくれずに消えるだなんて、酷すぎるじゃないか。 少したつと、もっと深く考えるようになってきた。 何が彼女をそこまで追い詰めたんだろう。 俺はいったい何をどうすればよかったんだろう。 香奈と最後の日々に交わした言葉に何かヒントはなかったのか。 もしかしたら……。 何度も何度も自問した。 電車で何度か駅を乗り過ごしそうになるほどに。 明け方まで眠れなくて、昼間コーヒー漬けになるほどに。
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