残されたもの

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> 卓(すぐる)、私たちもうお終いにしたほうがいいんじゃないかと思う 深いため息をついて、携帯を伏せた。 待ち合わせていた人が現れたのだ。 『世界で活躍する我が県民 - アンデスの子らを導く “希望の父” 』 この特集記事を担当させてもらったのは本当に幸運だった。 こんな凄い人に出会えたんだから。 彼の名前は檜山達(ひやま たつ)。 もうすぐ50になるというが、日焼けした肌と服の上からもわかるがっしりした体つきのせいか、まだ30代後半にしか見えない。 彼は若い頃に南米アンデス地方と関わりを持ち、その地に住む貧困層の生活向上のプロジェクトに関わるようになった。 下水道はもちろん上水道も整備されておらず、雨季に雨水をためなければならないのに雨漏りがする掘っ立て小屋のような家で人々は暮らしていた。 世界的に名の知れたNGOの日本支部のリーダーとして、檜山さんは国際援助機関や相手国の担当省庁と渡り合いながら、現地で生活する人々に一番近い立場に身をおいて彼らの声を身近に聞く。 そして彼らのニーズを満たす方向へ動きながらも、いつの日か皆が援助無しで暮らせるよう自立の道を探る。 それは忍耐と粘り強さと、何よりその土地と人々への愛情がないとできない仕事だった。
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