残されたもの

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ーーーーー ーーーーーーー 「知り合った当時、彼女は花屋でなくて、俺がよく通ってた喫茶店でバイトしてたんだ」 僕のもう1杯いきますかの問いに、檜山さんは横に手を振った。 「客の嗜好を一回で覚えて、次の時に聞いてくるんだ。バイトなのに」 視線は前に向けたまま、コースターを回すようにいじりながら彼は続けた。 「プロジェクトで人を動かしてた俺には好感が持てた。で、口説いて初デートにこぎつけたんだ。初めて行ったのがそのテーマパークでね」 「ベタですね」 「ベタだよな」  口元を緩めながらながら彼はこちらを見た。 「俺はずっと男子校で理系だったこともあって、高校、大学、院とまわりはムサイ男ばかりで。7歳も年下の20代の子をどうやって楽しませようかってんで、いろいろ調べたり周りに聞いたりしてさ。あのウブさ。今思い出せば笑っちまうけど」 そう言うと檜山さんは本当に笑い出した。 「あのころの俺たちは……、いや俺は、香奈がどうやったら喜ぶか、よく考えてた。今の組織で上にいけたら一緒になれるだろうかとか。だけど」 彼の口元から笑みが消える。
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