残されたもの

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カシャカシャと向こうで音がする。 バーテンダーが誰かのカクテルを作るためにシェイクをしているようだ。 「8年もですか」 「そう」 「その間にご結婚とかは? 」 率直に聞いてしまった。 「現地でいいなと思った子はいた。でも俺はいつか日本に帰る。家族から引き離して連れてくることがいいとは思えなかった」 こちらに来たバーテンダーに渡されたお絞りに 「どうも」 と笑みを返すと、彼はそれで手を拭いた。 「というか、そこまでの覚悟ができるほどの強い気持ちではなかったのかもしれないな」 独り言のような返事と共に折りたたまれたお絞りは、カウンターの隅にそっと置かれた。
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