残されたもの

28/32
前へ
/47ページ
次へ
ーーーーー ーーーーーーー 「それで、富山に移ることにしたんです」 「仕事を変えたんですか? 」 そんなはずはない。最初に会った時にもらった名刺の肩書きは同じNGOのそれも日本代表だったのだから。 「いや。東京の事務所が大きくなった時、そこの代表を他のヤツに譲ってこちらに来たんです。いまじゃインターネットのおかげでテレコミュート (遠距離在宅勤務) もできるから。新幹線のおかげで必要なら都心にはすぐ行けますしね」 「でも、日本代表のままですよね? 」 「ええ」  彼はくすりと笑みを漏らした。 「もう隠居でもいいよって言ったんですが、私の名前が通じている場所が多くてね。まあ形だけでも日本の代表は続けてくれと」 「でもまだそんな引退とかいう年でもないし、どうして、」 「ここにくれば、何か手がかりがあると思ったんです」 遮るように彼は言うと、「コーヒーを頂けますか? 」 とカウンターの向こうに声をかけた。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

125人が本棚に入れています
本棚に追加