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「で、」
一番気になる質問を口にする。
「会えたんですか? 」
「いや。別れて10年もたっていたし、どこかで幸せに暮らしていればいいさと思っていました」
ふわっとコーヒーのいい香りがした。
カップが二つ目の前に置かれたのだ。僕にもオーダーしてくれたのか。
「……と、いうのは嘘です」
え?
口に運びかけたカップを思わず止めてしまった。
「正直に言うと、富山に来た当初は花屋を見つけるたびに、立ち止まって中をのぞいてました」
ハハハ、と乾いた笑いを彼はこぼした。
「何をいまさらって感じですよね」
「会えたらどうするつもりだったんですか」
口調は丁寧になっても、もうあまり遠慮を感じなくなっていた僕は率直に聞きたいことを聞いた。
「どうするつもりだったんでしょうね。もう結婚しているだろうし、子供もいるだろうしね。ただ、」
彼はカウンターに静かにカップを置いた。
「ただ、あの時言葉にできなかったことを伝えられたらな、とは思っていました」
「どんなことを? 」
彼は黙ったままだった。
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