残されたもの

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「わざわざお越しいただいてすみません」  待ち合わせていたバーの丸椅子から降りて挨拶した。 「いや、遅れてすみません」  檜山さんは俺の隣の椅子に座ると、バーテンダーにグラスでシャルドネを注文した。 早速ですが、と鞄からインタビューの記事の最終稿を彼に見せる。まだ刷りたての綴じられていないものだ。 「これまでのお話に基づいてこんな形になりました。週明けまでに、もう一度目を通していただけますか」 返事がない。 どうしたのかと彼を見ると、カウンターの隅にある鉢植えを見つめていた。 「檜山さん? 」 「あ、ああ、すみません。ありがとう」  急にこちらに意識を引き戻されたかのように、彼は笑顔を作って綴りを受け取った。 「パンジーですね」 彼が見つめていた花に視線を投げる。 「……そうですね」  つぶやくように彼は言うと、「週明けですか。わかりました」 とうなづいた。 そして、「そうだ、先日子供たちが送ってきた動画を見ますか」 とタブレットをブリーフケースから取り出した。 「皆がクリスマスのメッセージを送ってくれまして」
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