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「最初はよかった。でも結婚してわかったけど、嫉妬深い人で、時が立つにつれ前の男はこういう風にしたのかとかいろいろ聞いてきて、挙句の果てに暴力まで、」
「ええっ!!」
「そんな、酷い! 」
今度ははっきりと僕も彼も、未帆まで叫んだ。
「DV(家庭内暴力)なら我慢してちゃダメですよ! 」
未帆が主張した。
「もう今は大丈夫です。あの人は再婚して、今は落ち着いていますから」
「そうか……それはよかった」
深い息を吐き出すように、檜山さんが言った。
「あの、お子さんは? 」
未帆が気になることをずばり聞いた。
「いないです」
寂しげに微笑んで言うと、香奈さんは顔を上げて檜山さんの方を見た。
「達もがんばってるんだね。これを読んで、それがわかってよかった。まさかこんな近くにいるとは思わなかったよ」
「そうだな」
「また行くんでしょう、向こうに」
「ああ」
「そうなんだ……。あの、達もパンジーを育てているんだね」
その言葉に彼はハッとすると、鞄に手を入れて何かを取り出した。
あの四つ折のメモを渡すのだろうか。
しかし彼の手の中にあったのは小さなジップロックの袋だった。
「これ。今年もたくさん取れたんだ」
「種? 」
「そう。君がベランダで育てていたパンジーの子孫だよ」
「え、」
香奈さんの顔が歪む。
顔を覆ってしまった指の間からは、少しして小さなすすり泣きが聞こえてきた。
「香奈」
檜山さんがこちらに来た。間に立っていた僕らは引き下がる。
「これ、少し持っていくか」
香奈さんは首を振るばかりだった。
「嫌か」
「違う! 」
泣きながらそれでも小さく叫ぶような声に、僕らは息を一瞬止めてしまった。
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