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「種じゃ、いや。花を、見たいの」
嗚咽と共に途切れ途切れに零れ落ちる言葉。
「香奈……」
「た、つ、のそばで、」
「香奈……!? 」
「たつ、と、いっしょに、」
「香奈、まさか」
檜山さんの目が見開かれていく。
「育て、たいの、」
「本気で言ってるのか? 」
彼の声に、香奈さんは顔を覆ったままうなづいた。
「香奈、顔を見せて。俺の目を見て」
「や、酷い顔だから」
「いいから」
さらに一歩近づいた檜山さんが、手を伸ばして顔を覆っていた彼女の手をゆっくりと外した。
「香奈、」
涙があふれては伝い落ちる彼女の瞳をまっすぐに見つめながら、ゆっくりと彼は言葉をつないだ。
「あの国は暑いから、パンジーはさすがに無理だ」
香奈さんが少し笑ったように見えた。
「だけど俺のそばで他の花を育ててくれるか? 」
「……うん」
「本当に? それとも少し考えてみてから、」
言いかけた檜山さんの言葉を、細いけれどしっかりした声が遮った。
「いいの、もうここに来るまでにたくさん考えた。達のそばで花を育てたいの! 」
その芯の通った強い響きに、檜山さんが息を飲んだのがわかった。
「……ずっとだぞ?」
「うん」
檜山さんは一瞬ぎゅっと両目をつぶると、離れて見ていてもそうとわかるくらい大きく息を吐いた。
そして目を開けて最後の一歩を歩み出ると、香奈さんをぐぃっと引き寄せて強く抱きしめた。
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